
悪徳商法被害を防ぐために補助の活用について
初めまして。行政書士の吉田安之と申します。
判断能力の衰えた高齢者や、精神障害者、知的障害者をを取り巻く悪徳商法被害は後を絶ちません。しかし実際に仕事や地域的な関係で親族であっても満足なケアをすることができない方も多くいらっしゃいます。
またこれらの被害はその被害に気がつくのが遅くなりがちであり、クーリングオフなどの強制解除などでの処理も難しいことがほとんどです。
そこで後見制度の中でも「補助」を用いることで「事前に予防線」を張ることにより悪徳商法被害を防いでゆくことをご提案申しあげます。
成年後見制度は、決して従来の禁治産者制度のようなものではありません。何よりも「本人の幸福のため」に作られた新たな制度なのです。
補助制度の概要
補助の対象となる方は、認知症・知的障害・精神障害等により判断能力が不十分な人とされています。高度な判断を要する行為に関する能力は不十分であっても、比較的単純な一定範囲の行為に関する能力はある人が対象となりますので、その他の制度の後見や保佐に比べても、本人の自己決定が尊重される制度となっており、さらに家庭裁判所への補助開始の審判の申立てには、本人の同意が必要とされています。
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後 見 |
保 佐 |
補 助 |
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本人の判断能力 |
全くない |
特に不十分 |
不十分 |
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申立権者 |
本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長など |
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本人 の 同意 |
開 始 |
不要 |
不要 |
必要 |
同意権付与 |
不要 |
不要 |
必要 |
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代理権付与 |
不要 |
必要 |
必要 |
補助人の同意権(取消権)と代理権について
補助の類型は、審判の開始の申立てとともに、特定の法律行為について補助人の同意を要する旨の審判、補助人に代理権を付与する審判のいずれか一方または両方の審判の申立てを行うことになります。
よって補助にはさらに3つの類型が存在することになります。
なお同意権や代理権の付与についても本人の同意が必要となります。
判断能力が衰えてきますと、悪質な訪問販売や、電話勧誘などの被害に遭う確率も高まってきます。このような場合に補助人に高額な買い物についての同意権(取消権)を付与しておくことで成立した契約を事後的に取り消すことが可能になります。
また、執拗な電話勧誘に悩んでいるなどの場合に、補助人に相談して対処するなど告げたらばその後の勧誘電話が鳴りやんだなどの話もあります。
つまりは予防のために補助制度を活用することは有効だということになります。
補助・同意権の内容
1 借財又は保証
(1)債務保証契約の締結
2 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
(1)本人所有の土地又は建物の売却
(2)本人所有の土地又は建物についての抵当権の設定
(3)贈与又は寄附行為
(4)通信販売(インターネット取引を含む)又は訪問販売による契約の締結
(5)金銭の無利息貸付け
(6)1件当たり金10万円以上の物品・サービスの購入
3 和解又は仲裁合意
4 新築、改築、増築又は大修繕
例えば、1(1)などをしておけば口車に乗せられて他人の保証人になって多額の債務を負ってしまうなどを防げますし、2(2)などではいわゆる原野商法などの二束三文の土地を高く売りつけられたなどの場合に対処が可能。2(4)では訪問販売で次々住宅リフォームを契約させられたなどの典型的な悪質商法被害に対抗してゆくことができます。
どんなケースに補助で取消できるか?
2 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為(1)本人所有の土地又は建物の売却について、同意権をつけていた。被保佐人は那須に土地を持っており、過去にも何度か出物の土地が出たなどの不動産屋の口車に乗せられ二束三文の土地を買わされていた。次々と何度も売買契約をさせられていたために困った親族の補助の申立てで補助人を付けるにいたった。
よって今後は補助人の同意なく契約をしてしまった場合は補助人によって取り消すことができるようになりました。
最近判断能力に不十分なところがでてきた高齢の母親。つい先日も訪問販売で浄水器などを売り付けられていました。そこで(4)通信販売(インターネット取引を含む)又は訪問販売による契約の締結に関する同意権を付与して補助人を付けることに。10万円以上の契約をするときには同意が要することになりました。
その後、訪問販売で30万円する浄水器を契約してしまいましたが、補助人によって取り消すことが可能になりました。
補助人が取消したらどうなるの?
本人の法律行為が取り消された場合には、現存利益を返還すれば足ります。例としては
1) 有体動産や不動産は、現状で返還する。
2) 金銭の場合、遊興費等に浪費したときは現存利益はなく、生活費その他の有益な出費に充てられたときは、それだけ他の財産の減少を免れたから、現存利益はあり、これを返還しなければならない。と解されています。
補助利用のためには
補助の審判の申立てには本人の同意が必要です。ということは、判断能力の衰えを自覚していない場合(結構このようなケースは多いんです)または認めたくない場合(俺はまだまだ元気だと思っている)などの場合に利用することができません。
しかし、補助の類型はあくまでも本人の自己判断尊重のための制度であり、同意権や代理権の内容は本人の意思に基づいて決定されるものです。
ですから、ある程度判断能力が残っているときに利用を始めてゆくことで被害予防につながります。よって一人暮らしの親が遠くにいる。子供たちは独立してそれぞれ外に出ているために面倒がなかなかみれない。そろそろ高齢になってきており何度か悪質商法被害に遭っていて心配だなどの場合は、制度のメリットなどをお伝えし、親族の方からも納得していただけるように説明してゆくということも必要でしょう。